自叙伝・人類の涙をぬぐう平和の母 第32話

「次は、アメリカに行かなければなりません」

「大変ではないですか?一日でもゆっくり休まれてはいかがでしょう」

「私を待っている人がたくさんいるのに、楽をしたいからといって休んではいけないでしょう」私は太平洋を越えてアメリカの地に入り、八大都市を巡回しながら、「女性時代」が私たちの目の前に迫ってきていることを英語で訴えました。ワシントンに集まった人々は、私に深い感謝の意を表してくれました。私に対する認識が、韓国から来た「文鮮明牧師の夫人」から「女性代表としての韓鶴子」に変わり、ひいては「世界を救う女性指導者」として、私を仰ぐようになったのです。

忘れられないのが、フィリピン大会です。大会前日、マニラへ向かうために、飛行機に乗り込みました。すると、しばらく目を閉じている間に、赤ん坊にお乳を飲ませる夢を見たのです。顔立ちのすっきりしたかわいい赤ちゃんをじっと見つめながら、私は夢の中で独り言をつぶやきました。

「もう、赤ん坊を生む年齢ではないのだけれど……?」

マニラ空港に到着する頃には、その夢のことは忘れていましたが、ちょうどその日は、マリヤに関する祝日として、カトリックで記念している日でした。

その日、マニラ市内を歩いていたある女注が、黄色いチョゴリ姿の私のポスターを偶然目に


しました。その瞬間、彼女は「この方はマリヤの使命を果たす方だ」という思いに駆られ、我知らず、大会の会場に入ってきたのです。彼女は私の講演を聴いて感服し、大声で叫びました。「きようのような聖なる日に、フィリピンの地に来られたあの方は、本物のマリヤだ!」

大きな困難とやり甲斐を両方感じたのは、最後の講演地である中国でした。開放政策がある程度進み、大会も問題なく開催できるだろうと予想していましたが、そうはいきませんでした。まず共産党が許可をせず、さらに軍部も許可を出しませんでした。政治大会ではないと言って説得すると、「それなら、まずは原稿を検閲する」と言、つのです。そうして、党が原稿を検閲するのに、一週間もかかりました。

「このような内容は困ります」

彼らは何度も拒絶してきましたが、私は譲歩しませんでした。そして政治とは何の関係もなく、「女性」が大会のテーマであることを強く押し出した結果、ようやく許可が下りたのです。

鄧小平氏の息子で、自身も障がいのある鄧樸方という方が会長を務める中国身体障害者連合会が、大会前日、私たちを招待し、歓迎会を開いてくれました。その場はまさに、体制や理念を超えて互いに励まし合う、和合の場となりました。

夜には、中華全国婦女連合会という組織が私たちを招待してくれました。最初はよく知らない間柄だったので、ぎこちなさもありましたが、すぐに打ち解け、楽しく歌を歌いながら、和動の時間を持つことができました。

しかし、歓迎会と講演は別物です。私は最初の原稿のまま、はばかることなく講演をしました。共産国家で「神様」という言葉が一度どころか、十数回も出てくるので、人々は驚きを隠せませんでした。私は堂々と、当然すべきことをするという能心度で、講演をしました。北京の人民大会堂でそのような講演をしたこと自体が、まさに革命的な出来事でした。

このようにして、一九九二年に一年間かけて、世界百十三力所で講演を行いました。韓国を発つ時、それぞれの国や気候にふさわしい服を何着も準備して行ったのですが、帰ってきた時は、一着も残っていませんでした。ほぼ一年ぶりに家に帰ると、文総裁が「御苦労様」と言いながら、ふと尋ねました。

「ところで、結婚指輪はどこへ行ったの?」

私は自分の手を見ました。日本に行く時は着けていたはずですが、いつの間にかなくなっていたことに、その時になって気づいたのです。

「指輪……ありませんね。誰かにあげたのでしょう」

「誰にあげたの?」

「誰かにあげたことはあげたのですが、思い出せません。受け取った人が大切に保管しているか、売って生活費の足しにすることでしょう」


「あげたのはいいとして、誰にあげたかも覚えていないの?J私は、いつもそうしてきたので、たいしたことではないと思いました。

私たち夫婦は、聖婚式は挙げたものの、新婚旅行には行けませんでした。私はそれを気にしていませんでしたが、文総裁はそれをずっとすまなく思っていたようです。世界巡回でオランダに立ち寄った際、それまで節約に節約を重ねて貯めたお金で、思い切って小さなダィヤの指輪を買ってくれたのです。そのような思い入れのある指輪を、私は誰かにあげてしまった上、そのことを覚えてすらいませんで—^た。

私は与えるのもためらいなく与えますが、与えると同時に、そのことを忘れてしまいます。自分が持っている物を与え、愛を与え、さらには命まで与えても忘れる人が、神様の一番近くに行くことができるのです。

私は足が腫れ上がるまで世界を回り、女性の真の価値と使命、神様の愛について伝えました。それは人々が神様を知らず、真の父母を知らずに、天涯の孤児になることを防ぐためでした。真の父母に侍って生きるとき、すべてを失った孤児の立場から抜け出し、本当の幸せを手にする神様の息子、娘となるのです。


Luke Higuchi